大動脈弁閉鎖不全症(AR)を見逃さない
監修:渡辺弘之先生(東京ベイ・浦安市川医療センター センター長 / 循環器内科)
お知らせ
2024. 07. 23 動画ライブラリ「アニメーションシリーズ」の第3回を公開しました
3分でわかる!大動脈弁閉鎖不全症(AR)のすべて
大動脈弁閉鎖不全症(AR)の治療には早期の発見と継続的なフォローアップが重要です。手術が必要な場合、そのタイミングを計ることが患者さんの予後改善につながります。
患者さん向け冊子「大動脈弁閉鎖不全症と診断された患者さんへ」
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ARの実態を把握すべき3つの理由
ARの実態を把握すべき理由①「中等症以上のAR患者数は約67万人」
米国の調査によるとAR罹患率(18歳以上)は、中等症以上で0.5%と報告1 されており、高齢になるほど患者数が増える傾向にあります1。
このAR罹患率を日本の45歳以上の人口2 にあてはめて推計すると、中等症以上のAR患者数は約67万人と考えられます。
ARの実態を把握すべき理由②「重症になっても症状がない場合がある」
ARは無症状な期間が長く、重症になっても症状がない場合があります3)。また、徐々に進行するため、患者さんは症状を自覚していない可能性もあります。
慢性ARでは、大動脈からの逆流を左室が長期間にわたって負担することで血行動態を維持しています。慢性ARの特徴でもある無症状の期間の長さは、こういった代償によって成り立っていますが、これが破綻しはじめると、徐々に左室が拡大、心機能が低下し、患者さんは症状を自覚するようになります。
体調の変化を見逃さず、ARと診断されたら、定期的に検査を行って重症度の変化を把握することが大切です。
患者さんに症状や疾患を説明する際には「大動脈弁閉鎖不全症と診断された患者さんへ」冊子をご活用ください。
ARの実態を把握すべき理由③「進行の予測が難しく、紹介の遅れがリスクを上げる可能性がある」
米国の調査では、症候性重症ARは、ガイドラインで手術が推奨5 されているにも関わらず、多くの患者さんが1年以内に手術を受けていないことが分かりました。一方で、1年以内に大動脈弁置換術(SAVR)を受けた患者さんは、受けなかった患者さんに比べて死亡率が低かったことが報告6 されています。
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ARの病因はさまざま
- ARの機序としては、弁自体に器質的変化をきたしている場合と、上行大動脈が拡大しているために弁尖間の接合が浅くなって逆流を生じる場合がある。
- ARの病因はさまざまだが、加齢変性と二尖弁による逆流が多く見受けられる。二尖弁の場合、基部拡大も伴うことがあるので注意が必要。
- 感染性心内膜炎(IE)などの急性ARは迅速な診断と治療が必要。
- 慢性ARは病態の進行がゆっくりで症状が出にくいため、進行を把握しておき、適切な手術時期を逃さないことが重要。
重症度は主にTTEで評価
- ARの重症度評価には、TTE(経胸壁心エコー図検査)が推奨され、治療介入の時期を決定する際の重要な指標となる。
- TTEによるレポートの経時的な変化を意識して確認するとよい。また、逆流の重症度だけでなく心機能が低下していないか、心臓への負担も確認することで、より総合的なARの評価につながる。
- 感染性心内膜炎(IE)などの急性ARは迅速な診断と治療が必要。
- TTEで確定できない場合は、 TEE(経食道心エコー図検査)や心臓MRI検査などを組み合わせ、総合的に判断する。
TTEによる定期的なフォローアップが重要
- 長期間ARが続くことで前負荷・後負荷に対する予備力が破綻し、左室駆出率(LVEF)の低下が始まり、さらに進行すると心筋障害が進行し、左室機能低下が不可逆になる。
- 無症候性ARの場合、TTEによる定期検査が推奨されており、この検査でARの進行や心機能低下の度合いを把握することが重要。
- 感染性心内膜炎(IE)などの急性ARは迅速な診断と治療が必要。
- フォローアップを漫然と続けていると、手術のタイミングを逃してしまう可能性がある。タイミングを逃さないためには、さまざまな指標をバランスよく総合的に評価する必要がある。
慢性重症ARの手術適応
慢性ARの手術適応は、症状の有無、左室駆出率(LVEF)、左室の大きさ(左室収縮末期径(LVESD)と左室拡張末期径(LVEDD)によって推奨度合いが変わります(図)。
慢性ARでは重症で症状を認めた場合、積極的に手術を検討する必要があります。
症状がなくても、心機能低下や心拡大が進行している場合には、手術のタイミングが遅れないように注意が必要です。
ARを根治するための治療には、主に外科的大動脈弁置換術(SAVR)がありますが、弁形成術(SAVP)が行われる場合もあります。
弁置換術は自己の弁を人工弁に入れ替える方法で、人工弁には機械弁と生体弁の2種類があります。60歳未満では機械弁、 65歳以上では生体弁が望ましいとされ、その間の年齢ではどちらでもよいとされていますが、それぞれの長所、短所を十分に説明したうえで、最終的には患者さんの判断により決定することが推奨3 されています。
もっとARを知ろう!動画ライブラリ
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セミナー動画
全3回アニメーション・シリーズ「 これって、大動脈弁閉鎖不全症?」
第2回 バランスのよい評価を考える
第3回 手術にむけたフォローアップを考える
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参考文献
- Nkomo VT, et al. Lancet 2006; 368:1005–11.
- 総務省統計局. 人口推計. 2022年2月1日現在(確定値)
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/pdf/202207.pdf(アクセス日:2023年4月) - 日本循環器学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会/日本心臓血管外科学会合同ガイドライン、2020年改訂版弁膜症治療のガイドライン.
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/04/JCS2020_Izumi_Eishi.pdf(2023年4月閲覧) - Bekeredjian R, et al. Circulation. 2005;112(1):125–34.
- Otto CM, et al. Journal of the American College of Cardiology 2021(2);77(4):e25-197.
- Thourani VH, et al. Structural Heart 2021; 5(6):608-618.