非心臓手術における術中低血圧の予後への影響

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更新日:2019年11月12日

術中低血圧の影響についてのタイトル画像

Intraoperative Hypotension Matters

近年、非心臓手術における術中低血圧と予後への影響を調査した報告が相次いでいます。術中低血圧が関与する術後の問題として、非心臓手術後心筋障害と急性腎障害があり、非心臓手術後心筋障害は、術後30日死亡に最も関与しているのではないかと考えられています。

近年発表された論文から、術中低血圧の問題を紹介します。

 

Intraoperative Hypotension Matters

術中低血圧と非心臓手術後の予後

術中低血圧や、手術後の予後については以下のような報告があります。

・米国では、手術に関連した死亡が心疾患、がんに次いで3番目に多い
・術中低血圧により、非心臓手術後の死亡リスクが増大する2,3
・術中低血圧は術後30日死亡の主要因である急性腎障害と非心臓手術後心筋障害と関連する4-6
・平均動脈圧65mmHg未満が持続することで、非心臓手術後心筋障害と急性腎障害の発生リスクが増大する4
平均血圧65mmHg未満が持続することで、AKIやMINSの発生リスクが増加することを図示した画像

Salmasiら(クリーブランドクリニック)の報告

米国クリーブランドクリニックの調査では、非心臓手術における術中低血圧と予後との関連が示されました4。平均血圧が65mmHgを下回る場合(絶対的低下)と、患者の平均血圧のベースライン値から20%以上低下した場合(相対的低下)は、いずれも非心臓手術後心筋障害や急性腎障害の発生率と関連していました。さらに、血圧の低下が長時間続くほど、非心臓手術後心筋障害や急性腎障害の発生率は高まりました。

この結果から、Salmasiらは術中平均血圧を65mmHg以上に維持することが非心臓手術後心筋障害や急性腎障害の発生リスクの軽減につながることを示唆しています。
非心臓手術における術中低血圧と予後との関連を示した文献の画像

[Cleveland Clinic] Daniel Sessler医師、Kamal Maheshwari医師の講演を動画でご覧いただけます。

クリーブランドクリニックから周術期低血圧や非心臓手術後心筋障害などの予後との関連について、多くの報告があります。クリーブランドクリニックで研究を主導するDaniel Sessler医師、Kamal Maheshwari医師の講演をこちらからご覧いただけます(日本語字幕付き)。

Dr. Daniel Sessler
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Dr. Kamal Maheshwari
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Sessler医師、Maheshwari医師の、低血圧に関するプレゼンテーションのタイトル画像

術中低血圧に関連する最近の論文

タイトル Myocardial injury after noncardiac surgery (MINS) in vascular surgical patients. A prospective observational cohort study.(7)
対象 血管外科手術を受けた45歳以上502例
方法 ■術後3日間トロポニンT値を測定■虚血に続発するトロポニンT値が0.03ng/mL以上の状態をMINSとして定義
結語 血管手術後にMINSを発症した患者の割合は約5分の1であった。MINSと30日死亡率との間には独立した関連性が認められたが、MINSを発症した患者の大多数は無症候であり、術後にルーチンでトロポニン値の測定を実施しなければ検出されなかったとみられる。
タイトル Relationship between intraoperative mean arterial pressure and clinical outcomes after noncardiac surgery. Toward an empirical definition of hypotension.(6)
対象 非心臓手術を受けた33,330例
方法 ■術中の平均動脈圧55mmHg未満から75mmHgと術後の急性腎障害および心筋障害との関連性を評価■設定閾値を下回っている時間とアウトカムとの関連性を評価
結語 たとえ短時間でも術中の平均動脈圧55mmHg未満は、急性腎障害および心筋障害と関連性がある。術中の平均動脈圧を55mmHg以上に維持することでアウトカムが改善するかどうかを判断するために、無作為化試験が必要である。
タイトル Myocardial injury after noncardiac surgery: a large, international, prospective cohort study establishing diagnostic criteria, characteristics, predictors, and 30-day outcomes.(8)
対象 非心臓手術を受けた45歳以上の入院患者15,065例
方法 ■術後3日間トロポニンTを測定■トロポニンT値が0.04ng/mL以上で虚血特性を評価■非虚血性(敗血症など)のトロポニン上昇は除外
結語 非心臓手術を受けた成人患者では、MINSがよく認められており、高い死亡率と関連している。
タイトル Relationship between intraoperative hypotension, defined by either reduction from baseline or absolute thresholds, and acute kidney and myocardial injury after noncardiac surgery. (4)
対象 非心臓手術を受けた57,315例
方法 ■累積時間1, 3, 5, 10分でさまざまな絶対値・相対値を下回る平均動脈圧の最低値およびさまざまな絶対値・相対値を下回る平均動脈圧値の時間加重平均によって低血圧を評価■術中低血圧と心筋障害または腎障害との関係がベースラインの平均動脈圧値に依存するかを評価■絶対値および相対値と心筋障害および腎障害の関連性の強さを比較
結語 相対値に基づく関連性と絶対値に基づく関連性は同等であり、術前の血圧値については臨床的に重要な相互作用は認められなかった。術中の麻酔管理は術前の血圧と関係なく、術中の血圧に基づいて行うことができる。
タイトル Perioperative myocardial injury after noncardiac surgery. Incidence, mortality, and characterization.(9)
対象 ■2018例に対する2,546件の手術■手術後の入院予定期間が24時間以上であり、心血管リスクが高い患者
方法 ■術前および術後にトロポニンT値を測定し周術期心筋障害の発生率を評価■トロポニンT値が術前と比較して絶対値で14ng/L以上、上昇した場合を周術期心筋障害と定義■周術期心筋障害と30日死亡率、1年死亡率との関連性を評価(*1年以内に複数回の手術例は除外)
結語 非心臓手術後の周術期心筋障害はよくみられる合併症であり、周術期心筋障害は早期に検出された場合も短期および長期死亡率と関連性が認められた。周術期心筋障害の症例において、急性心筋梗塞の追加基準を満たしている/満たしていないで比較したところ、死亡率は同程度であった。
タイトル Association of intraoperative hypotension with acute kidney injury after elective noncardiac surgery.(5)
対象 入院期間1日以上の非心臓手術患者5,127例
方法 ■観血的に平均動脈圧を測定■術中低血圧を主要暴露因子とした■主要評価項目は術後2日以内の急性腎障害(クレアチニン値が50%もしくは0.3mg/dL増加した場合)
結語 この研究では術後の急性腎障害と術中の平均動脈圧55mmHg未満および60mmHg未満での持続時間との関連性が認められたが、術中低血圧の迅速な治療と患者個々の生理機能に合わせた介入が、急性腎障害のリスクを抑制できるかを検討する臨床試験の実施が期待される。
タイトル Period-dependent associations between hypotension during and for four days after noncardiac surgery and a composite of myocardial infarction and death. A substudy of the POISE-2 Trial.(10)
対象 10,010例(収縮期血圧105mmHg以上および心拍数55拍/分以上で心血管疾患を有する患者および心血管疾患発症のリスクのある患者)
方法 ■術中、術当日、術後4日間の低血圧と術後30日間の死亡および心筋梗塞の関連を検証■低血圧の定義は、収縮期血圧90mmHg未満で治療を要する場合
結語 周術期(術中を含む手術日、術後4日間)において、臨床的に重要な低血圧(介入の余地がある)と心筋梗塞および死亡との間には、先行して発生した低血圧に対して調整した場合であっても有意な相関が認められた。
タイトル The relationship between ICU hypotension and in-hospital mortality and morbidity in septic patients.(11)
対象 集中治療室に24時間以上滞在した成人の敗血症患者8,782例
方法 ■平均動脈圧の時間加重平均ならびに55、65、75および85mmHg未満の累積時間に基づいて低血圧を定義■低血圧と院内死亡率、急性腎障害および心筋障害との関連性を評価
結語 平均動脈圧85mmHgで死亡率、急性腎障害および心筋障害のリスクが顕著となった。閾値が低下するにつれ、死亡率および急性腎障害のリスクは徐々に悪化し、敗血症のICU入院患者においては、平均動脈圧を65mmHgを十分に上回るように維持することが妥当と思われる。

非心臓手術後心筋障害(Myocardial Injury After Noncardiac Surgery、以下MINS)とは?

MINSは心筋梗塞とは異なります。MINSは非心臓手術の約18%で発生するとされ、その90%は、心筋梗塞のような自覚症状や心電図所見がありません12。唯一の検出方法は術後の高感度トロポニン濃度の測定です。発生要因に術中の心筋酸素需給バランスの崩れが指摘されており、MINS症例の死亡率は心筋梗塞と同等と考えられています。予防法は確立されていませんが、前述の通り、術中低血圧との関連が指摘されています。
心筋障害(MINS)をイメージした心臓のイラスト画像

全身への血液循環-血圧と血流-

適切な組織灌流には適切な血圧と血流が必要です。低血圧のコントロールは原因によって対応が異なりますが、適切な組織灌流を目指した血圧管理には血流の指標である心拍出量や一回拍出量も重要な指標になります。

血圧と血流(ここでは心拍出量、一回拍出量)の関係は生理学的な基本事項であり、次のような式で表すことができます。この関係式から、血圧を上昇させることは必ずしも血流を増やすことにはつながらないことがわかります。

・心拍出量=一回拍出量×心拍数
・一回拍出量=血圧÷血管抵抗
・血圧=一回拍出量×血管抵抗


 
心拍出量の求め方を図解した画像

血流をどのように管理するか

組織灌流(血流)を維持するための循環、輸液管理において、最適な循環血液量の維持は重要な要素のひとつです。フランク・スターリング曲線では、前負荷と一回拍出量の関係を示しています。フランク・スターリング曲線に基づいて最適な循環血液量を考えてみると、右図の“Target zone”が得られます。循環血液量は過小でも過多でも合併症などのリスクにつながることが報告されています。

最適な一回拍出量であるかどうかは輸液負荷テスト、下肢挙上テスト、動的パラメータとフランク・スターリング曲線の関係から推測することができます。一回拍出量は輸液・前負荷反応性を予測する指標として、高い感度と特異度をもつ指標です13,14,15
フランクスターリング曲線のグラフを簡単に表した画像

まとめ

低血圧は手術において一般的な問題ですが、酸素需給バランスのミスマッチから臓器に様々な問題を引き起こすため、低血圧の予防、早期対応は重要な課題となっています16。低血圧は前負荷、後負荷、収縮力のいずれか、またはこれらが複合的に組み合わさって生じます。よって、低血圧の診断や管理は、これらの心臓生理の情報に基づいて行う必要があります17

引用文献

1. Devereaux PJ, Sessler DI. Cardiac complications in patients undergoing major noncardiac surgery. N Engl J Med. 2015;373:2258-2269.

2. Mascha EJ, Yang D, Weiss S, et al. Intraoperative mean arterial pressure variability and 30-day mortality in patients having noncardiac surgery. Anesthesiology. 2015;123:79-91.

3. Monk TG, Bronsert MR, Henderson WG, et al. Association between intraoperative hypotension and hypertension and 30-day postoperative mortality in noncardiac surgery. Anesthesiology. 2015;123:307-319.

4. Salmasi V, Maheshwari K, Yang G, et al. Relationship between intraoperative hypotension, defined by either reduction from baseline or absolute thresholds, and acute kidney and myocardial injury after noncardiac surgery. A retrospective cohort analysis. Anesthesiology. 2017;126:47-65.

5. Sun LY, Wijeysundera DN, Tait GA, et al. Association of intraoperative hypotension with acute kidney injury after elective noncardiac surgery. Anesthesiology. 2015;123:515-523.

6. Walsh M, Devereaux PJ, Garg AX, et al. Relationship between intraoperative mean arterial pressure and clinical outcomes after noncardiac surgery. Toward an empirical definition of hypotension. Anesthesiology. 2013; 119:507-515.

7. Biccard BM, Scott DJA, Chan MTV, et al. Myocardial injury after noncardiac surgery (MINS) in vascular surgical patients: A prospective observational cohort study. Ann Surg. 2018;268:357-363.

8. Botto F, Alonso-Coello P, Chan MT, et al. Myocardial injury after noncardiac surgery: a large, international, prospective cohort study establishing diagnostic criteria, characteristics, predictors, and 30-day outcomes. Anesthesiology. 2014;120:564-78.

9. Puelacher C, Lurati Buse G, Seeberger D, et al. Perioperative myocardial injury after noncardiac surgery: Incidence, mortality, and characterization. Circulation. 2018;137:1221-1232.

10. Sessler DI, Meyhoff CS, Zimmerman NM, et al. Period-dependent associations between hypotension during and for four days after noncardiac surgery and a composite of myocardial infarction and death: A substudy of the POISE-2 trial. Anesthesiology. 2018;128:317-327.

11. Maheshwari K, Nathanson BH, Munson SH, et al. The relationship between ICU hypotension and in-hospital mortality and morbidity in septic patients. Intensive Care Med. 2018;44:857-867.

12. Sessler DI, Khanna AK. Perioperative myocardial injury and the contribution of hypotension. Intensive Care Med. 2018;44:811-822.

13. Peng K, Li J, Cheng H, et al. Goal-directed fluid therapy based on stroke volume variations improves fluid management and gastrointestinal perfusion in patients undergoing major orthopedic surgery. Medical Principles and Practice. 2014;23:413-20.

14. Berkenstadt H, Margalit N, Hadani M, et al. Stroke volume variation as a predictor of fluid responsiveness in patients undergoing brain surgery. Anesthesia & Analgesia. 2001;92:984-9.

15. Michard F, Mountford W, Krukas M, et al. Potential return on investment for implementation of perioperative goal-directed fluid therapy in major surgery: a nationwide database study. Perioperative Medicine, 2015;4:11.

16. Gogodedet T, Grobost R, Futier E. Personalization of arterial pressure in the perioperative period. Curr Opin Crit Care. 2018 ;24:554-559.

17. Scheeren TW, Saugel B. Management of intraoperative hypotension: prediction, prevention and personalization. Annual Update in Intensive Care and Emergency Medicine. Springer. 2018, 89-97.

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